「睡眠」は私たちの「健康」を維持するうえで欠かせない行動です。寝不足が続くと、生活習慣病や脳血管障害などのリスクが高まり、さらには死亡率の増加も指摘されています。加えて、日中の集中力や判断力が低下すれば、業務効率が落ちるだけでなく安全面にも大きな影響を及ぼすことがあるでしょう。一方で、「意識のない睡眠時間はもったいない」と考え、より短時間で済ませる方法を探る人もいます。実際のところ、理想的な睡眠時間はどのくらいがベストなのでしょうか? 本記事では、人によって大きく異なる睡眠時間の個人差や、短時間・長時間睡眠の注意点について解説します。
人生の3分の1が睡眠時間?
「1日8時間眠ると、人生の3分の1を睡眠に費やす」という言葉を耳にしたことはありませんか? これはあくまで平均的なデータに基づく概念であり、必ずしも8時間睡眠が万人にとって最適というわけではありません。歴史上の人物にも、3時間ほどの短時間睡眠で過ごしていたとされるナポレオンがいる一方、アインシュタインのように10時間以上たっぷり眠っていたとされる人物もいます。
現代社会においても、4時間以下しか寝ない人から10時間以上眠る人まで、その幅は実にさまざまです。しかし、睡眠時間の長さだけで「健康かどうか」を判断するのは難しいのも事実です。ここで大切なのは日中のパフォーマンス、すなわち、「眠気」を感じずに活動できているかどうか、という視点です。
睡眠と覚醒の関係
睡眠状態があるからこそ、私たちは日中に「覚醒」して意識的に活動できます。たとえば、1日8時間の睡眠をとる人であれば、残りの16時間は起きている=覚醒状態です。しかし、もし3時間しか寝なければ、21時間は覚醒状態が続きます。一見すると「たくさん活動できる」と思うかもしれませんが、身体が必要としている休息時間を無理に削っている可能性も高いです。
十分な睡眠を取らないまま長時間活動を続ければ、「日中の眠気」に悩まされるだけでなく、集中力が途切れて作業ミスや交通事故などのリスクが増すなど、「安全」を大きく損なう結果にもつながりかねません。こうした背景から、近年では企業が従業員の睡眠を含む健康面を支える「#健康経営」の重要性も広く認識されています。
自分に合った睡眠時間とは?
「8時間睡眠でも足りない」という人もいれば、「3時間程度寝ればすっきりする」という人もいます。実際のところ、何時間が理想かは個人の体質やその日の活動量によって異なるため、一概には言えません。年齢を重ねると深い睡眠を長く保てず、自然に目が覚めてしまうこともあります。
短時間睡眠が向いているかどうかを判断する際、最も大切なのは「日中に問題なく活動できるか」です。たとえば、次のような症状がある場合は、単に睡眠時間を削りすぎている可能性があります。
- 業務中や会議中に意識が飛びそうになる
- 一瞬意識が途切れる「マイクロスリープ」を頻繁に経験する
- 休日になると過度に長時間寝てしまう(平日の睡眠不足を取り返そうとする)
こうした状態では真の短時間睡眠者とは言えず、身体に負荷がかかっている証拠です。無理に睡眠時間を短くするよりも、適切な休息を確保することが「健康」と「安全」の両立につながります。
日中の活動量と睡眠の関係
自分に合う睡眠時間を探るうえで、注目したいのが日中の活動量です。たとえば、激しい運動やトレーニングを行った日は、普段よりも深く長めに眠りたくなるかもしれません。一方で、一日中ほとんど動かずに過ごした場合、体力をあまり使っていないため、眠りが浅くなったり短く済んだりするケースもあります。実際に、トップアスリートは現役時代にたっぷり寝ていたのに、引退後は睡眠時間が短くなったという事例も報告されています。
このように、体が必要とする睡眠時間は、その時々のエネルギー消費や心身の状態によって変化するのが自然です。無理をして一定の睡眠時間に固定しようとするのではなく、自分の身体の声に耳を傾けることが大切でしょう。
必要な睡眠時間の見極め方
科学的に厳密な方法を取るには、専門の病院などで脳波を測定しながら生活習慣を管理する必要があります。しかし、現実的には難しい場合がほとんどです。そこで、以下のような視点から、簡易的に自分に必要な睡眠時間を推し量ってみるとよいでしょう。
- 日中の体調や集中力をチェックする
- 午後や夕方以降に強い「眠気」を感じないか
- 仕事や家事のパフォーマンスが落ちていないか
- 休日に自然に目覚める時間を把握する
- 目覚まし時計を使わず、自然に起きた時の睡眠時間を記録する
- 平日との差が大きい場合、平日に睡眠不足を抱えている可能性が高い
- 生活習慣や運動量を振り返る
- 運動や長時間の外出が多い日は早めに就寝する
- 食事の時間やアルコール摂取、カフェイン摂取などが睡眠に及ぼす影響を確認する
上記のような自己観察を続けることで、だいたいの睡眠時間の目安が見えてくるはずです。
まとめ
- 睡眠時間には大きな個人差があり、8時間が絶対ではない
- 短時間睡眠者でも日中に支障がなければ問題ないが、無理な睡眠不足は「健康」や「安全」に大きなリスク
- 日中の活動量やライフスタイルによっても必要とされる睡眠時間は変化する
- 自己観察や生活習慣の見直しで、自分に合った睡眠時間の目安をつかむ
人によっては「もっと仕事をしたい」「趣味の時間を増やしたい」という考えがあるかもしれません。しかし、十分な睡眠を取らないと、「日中の眠気」によるパフォーマンス低下や事故リスク増大など、かえって目標に到達するまでの遠回りになりがちです。睡眠時間を確保し、体調を整えることは、自分自身の「健康」維持はもちろん、企業やコミュニティ全体の「安全」や「健康経営」にも寄与します。ぜひ、自分に合った睡眠時間を見極め、毎日の暮らしに生かしてみてください。