子どもの成績が伸びない原因は「睡眠」かもしれない|791人の研究が示す、勉強より先に見直すべきこと
「うちの子、もっと勉強させなきゃ」「塾の宿題が終わらないから、今日も寝るのは11時過ぎ」。受験や学力向上を意識する保護者ほど、子どもの学習時間を確保しようと就寝時刻を後ろ倒しにしがちです。
しかし、本当に成績を左右しているのは、勉強量ではなく「睡眠」かもしれません。
2022年に医学誌『Journal of Clinical Sleep Medicine』に掲載された研究では、6〜12歳の児童791人を対象に睡眠習慣と学業成績の関連を調査。その結果、成績が低い子どもの92.5%に、医学的に問題とされるレベルの睡眠の乱れがあったことが明らかになりました。
この記事では、この研究の内容をわかりやすく紹介しながら、子どもの睡眠を改善するために家庭で今日からできることをお伝えします。
「成績が悪い=勉強不足」とは限らない
791人の子どもを調査した研究が示す事実
インド・チェンナイにあるSri Ramachandra医科大学の研究チームは、6〜12歳の健康な児童791人を対象に、睡眠習慣と学業成績の関連を調べる大規模な調査を行いました(Sivakumar CTほか、2022年)。
調査には、世界的に広く使われている「小児睡眠習慣質問票(CSHQ)」が用いられました。これは保護者が33項目に回答する形式で、寝つきの悪さ、夜中に目が覚める頻度、いびき、寝る前の不安感など、子どもの睡眠にまつわる8つの領域を評価するものです。
学業成績は直近2回の定期試験をもとに、A(81〜100点:優秀)、B(61〜80点:平均的)、C(60点以下:低成績)の3段階に分類して分析されました。対象となったのは男児54.9%、平均年齢9.08歳の子どもたちで、喘息や発達障害などの持病がある児童はあらかじめ除外されています。つまり、「健康な子どもでも睡眠の乱れは広く見られる」という前提での調査です。
成績が低い子の9割以上に睡眠の問題があった
分析の結果、睡眠に問題があるとされるスコア(この質問票で41点以上)に該当した子どもは、全体の71.9%にのぼりました。つまり、調査対象の約7割の子どもに、何らかの睡眠習慣の乱れがあったのです。
さらに注目すべきは、成績との関連です。成績がC評価だった子どものうち、92.5%が医学的に問題ありとされる睡眠習慣に該当していました。B評価の子どもでも83.2%が該当しており、一方でA評価の子どもでは36.4%にとどまっていました。
この研究では、睡眠問題のスコアが1点上がるごとに成績が約3.8点下がるという関連も確認されています。統計的にも非常に強い関連が認められており、「成績が伸びない原因は勉強量ではなく、睡眠にあるかもしれない」という視点で報告しています。
「能力の問題」ではなく「眠りの問題」という見方
成績が振るわないとき、多くの保護者はつい「勉強が足りないのでは」「うちの子は集中力がない」と考えがちです。しかしこの研究は、「成績不振の背景に、睡眠という見落とされやすい要因がある」ことを示しています。
お子さんの成績について悩んでいるなら、まず睡眠の状態を見直してみることが、最初の一歩になるかもしれません。勉強の量を増やす前に、眠りの質を上げる。この発想の転換が、子どもの本来の力を引き出すきっかけになります。
睡眠時間の確保は大前提。そのうえで「質」が成績を分けていた
ほとんどの子どもが推奨時間に届いていなかった
この研究では、対象となった子どもたちの平均睡眠時間は8.5時間でした。一般的に6〜13歳の子どもに推奨されている睡眠時間は9〜11時間ですから、大半の子どもが推奨時間に届いていなかったことになります。
年齢別に見ると、6歳児の平均は9.2時間だったのに対し、12歳児は7.3時間まで減少していました。年齢が上がるにつれて睡眠時間が短くなる傾向は、日本の子どもたちにも共通する課題です。
まず押さえておきたいのは、そもそも睡眠時間が足りていない子どもが大半だったという事実です。これが、この研究を読み解くうえでの重要な前提になります。
「時間が足りない」なかで、成績の差を生んでいたのは睡眠の「質」
では、睡眠時間がどの子も不足しているなかで、成績に差をつけていたのは何だったのか。この研究で成績との関連が統計的に認められたのは、次の5つの領域でした。
・睡眠中の呼吸の乱れ(いびきなど)
・夜中に何度も目が覚める
・寝ぼけや夜驚症などの異常行動
・寝ることへの不安感
・なかなかベッドに入ろうとしない
一方で、「睡眠時間」「寝つきにかかる時間」「日中の眠気」については、成績との間に統計的に意味のある関連は見られませんでした。ただし、これは「睡眠時間が重要でない」という意味ではありません。対象の子どもたちのほとんどが睡眠不足の状態だったため、時間の長さで差がつきにくかったと考えられます。
つまりこの研究が示しているのは、十分な睡眠時間の確保は大前提であり、そのうえで「途切れずに、安心して、深く眠れているか」という質の面も学業成績に影響しているということです。時間と質、両方が揃ってはじめて、子どもの脳は学んだことをしっかり定着させることができるのです。
寝室のテレビやタブレットが子どもの眠りを壊している
テレビやスマホと睡眠の乱れの関係
この研究では、子どものスクリーンタイム(テレビ、タブレット、スマートフォンなどの利用時間)と睡眠習慣の関連も調べられています。
全体の66%の子どもが1日1〜2時間、21%が2時間以上のスクリーンタイムを持っていました。そして、寝室でテレビを見ている子どもの46%、寝室でタブレットやスマートフォンを使っている子どもの34%に、睡眠習慣の乱れが確認されました。
特に、「寝室でのテレビ視聴」と「睡眠スコアの悪化」の間には、統計的に意味のある関連が認められています。この研究の著者らも、テレビの視聴場所と視聴時間が子どもの睡眠に影響する強い要因であると指摘しています。
なぜ寝室のテレビやタブレットが問題なのか
画面から発せられるブルーライトは、一般的に、眠りを促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑えることが知られています。また、動画やゲームの刺激的なコンテンツは脳を興奮させ、寝つきを悪くします。
さらに厄介なのは、寝室にテレビやタブレットがある環境そのものが「寝室=眠る場所」という意識を弱めてしまうことです。子どもの脳に「この部屋は遊ぶ場所でもある」という認識が生まれると、布団に入っても気持ちが切り替わりにくくなります。
「寝室にテレビやタブレットを持ち込まない」というシンプルなルール
家庭で取り入れやすい対策として最も効果的なのは、「寝室にテレビやタブレットを持ち込まない」というルールを設けることです。
テレビは寝室以外の部屋に置く、タブレットやスマートフォンは就寝の1時間前にはリビングに戻す。こうした小さな環境の変化が、子どもの睡眠の質を大きく改善する可能性があります。「寝室では画面を見ない」というルールを家族全員で決めてしまえば、子どもだけでなく大人の睡眠も改善される副次的な効果が期待できます。
見逃されやすい子どもの睡眠トラブルのサイン
いびき、歯ぎしり、おねしょは「睡眠の問題」のサイン
この研究では、子どもの睡眠にまつわるさまざまな身体的なサインについても調べられています。
対象児童のうち、いびきをかく子は10.6%、夜中に突然泣き叫ぶなどの夜驚症は8.0%、歯ぎしりは6.4%、おねしょは3.5%に見られました。注目すべきは、おねしょのあった子どもの100%が、睡眠に問題ありのスコアに該当していた点です。
また、体重が標準を超えている子どもの76.4%、肥満の子どもの83.8%にも睡眠の乱れがありました。
これらの症状は「子どもにはよくあること」として見過ごされがちですが、実は睡眠の質が低下しているサインである場合があります。先ほど触れた通り、いびきなどの呼吸の乱れは成績との関連が最も強かった領域でもあるので、日常的に見られるなら注意が必要です。
「寝ているから大丈夫」ではない理由
保護者の多くは、子どもが布団に入って目を閉じていれば「ちゃんと寝ている」と考えます。しかし、この研究では全体の46%の子どもが1晩に1回以上目を覚ましていたことが報告されています。見た目には寝ていても、脳が十分に休息できていないケースは少なくありません。
子どもの睡眠の問題は、本人が自覚していないことがほとんどです。だからこそ、保護者が「寝つきが悪くないか」「夜中に起きていないか」「朝すっきり起きられているか」といった視点で、日頃から観察することが大切です。
気になるサインがあれば専門家に相談を
いびきが習慣的に見られる場合や、夜驚症が頻繁に起こる場合は、睡眠の専門外来や小児科での相談をおすすめします。この研究の著者らも、「睡眠に関する問診を小児科の定期健診に組み込むべき」と提言しています。
日本でも、乳幼児健診や学校健診の際に睡眠について聞かれる機会は多くありません。気になるサインがあれば、保護者から積極的にかかりつけ医に伝えてみてください。
受験期こそ「睡眠ファースト」で成績を伸ばす
「睡眠を削って勉強」は逆効果
中学受験を控えた小学4〜6年生の時期は、塾通いや宿題に追われ、就寝時刻が遅くなりがちです。「あと1時間だけ勉強させたい」という気持ちは、子どもの将来を思う保護者として自然なものでしょう。
しかし、この研究が示しているのは、睡眠の質が下がると学業成績も下がるという明確な関連です。睡眠を削って確保した勉強時間は、脳が学習内容を定着させる時間を奪っている可能性があります。
受験期だからこそ、「寝る時間を守る」ことが、実は最も効率のよい学習戦略かもしれません。十分な睡眠をとった翌日の方が、授業への集中力も問題を解くスピードも上がることは、多くの保護者が経験的に感じているのではないでしょうか。
今日から始められる5つの睡眠改善ポイント
この研究の知見と専門家の提言をもとに、家庭で取り入れやすい睡眠改善のポイントをまとめました。
1つ目は、就寝時刻と起床時刻を毎日一定にすること。週末も含めて30分以内のズレに抑えることで、体内時計が安定します。
2つ目は、先ほど述べた通り、寝室からテレビやタブレットを出すこと。寝室の外に置く習慣を家族で作りましょう。
3つ目は、就寝前の1時間をリラックスタイムにすること。お風呂、読書、ストレッチなど、脳を落ち着かせる活動に切り替えることで、寝つきが良くなります。
4つ目は、いびきや夜中の覚醒など、気になる症状を記録すること。1〜2週間の記録があると、小児科で相談する際に大きな手がかりになります。
5つ目は、「寝ることは大事なこと」と家族で共有すること。子ども自身が「睡眠は自分の味方だ」と感じられる雰囲気を作ることで、就寝への抵抗感が和らぎます。
「よく眠る子」が「よく伸びる子」になる
睡眠は、子どもの脳が日中に学んだ情報を整理し、記憶として定着させるための大切な時間です。質のよい睡眠がとれている子どもは、翌日の授業での集中力も高まり、学習効率が上がる好循環が生まれます。
「もっと勉強させなければ」と焦る前に、まずは「ぐっすり眠れているか」を確認してみてください。睡眠という土台が整えば、子どもの持っている力は自然と発揮されていくはずです。
睡眠時間も質も、学業には大切
今回紹介した研究は、6〜12歳の児童791人を対象に、睡眠習慣と学業成績の関連を調べたものです。成績が低い子どもの9割以上に医学的に問題とされる睡眠の乱れがあり、ほとんどの子どもが推奨睡眠時間に届いていないなかで、成績の差を生んでいたのはいびきや夜間覚醒、就寝時の不安など「睡眠の質」に関わる要素でした。
子どもの成績を伸ばしたいと思ったとき、最初に見直すべきは塾の数や勉強時間ではなく、毎晩の睡眠環境かもしれません。寝室にテレビやタブレットを置かない、就寝時刻を一定にする、気になる症状があれば小児科に相談する。こうした一つひとつの取り組みが、お子さんの学ぶ力を根本から支えてくれます。今夜の就寝時刻から、お子さんの未来は変わり始めます。
【参考文献】