蕁麻疹・皮膚炎のかゆみが奪う子どもの睡眠

〜睡眠不足と肌トラブルの「負のループ」を断ち切るために〜

「子どもが夜中にかゆがって何度も起きてしまう」。蕁麻疹やアトピー性皮膚炎を抱えるお子さんの親御さんにとって、これは切実な悩みではないでしょうか。肌のかゆみは見た目の問題にとどまらず、夜の眠りを奪い、子どもの成長や日々の生活に静かに影響を及ぼすことがあります。

また、麻疹(はしか)のような感染症でも、高熱や発疹に伴う不快感から夜ぐっすり眠れなくなることがあります。肌に何らかのトラブルを抱えているとき、睡眠の質にまで目を向けている親御さんは、意外と少ないかもしれません。

2023年に発表された国際共同研究(Kulkarni VAら、JMIR Dermatology)では、オーストラリアやアメリカの複数の大学からなる研究チームが、皮膚疾患と睡眠障害の関係について大規模な分析を行いました。1945年から2021年までに発表された研究から、質の高い25件(対象者は合計約11,000名)を選び出し、「皮膚の治療が睡眠をどの程度改善するのか」を包括的に調べています。対象となった皮膚疾患はアトピー性皮膚炎や蕁麻疹のほか、皮膚が赤くカサカサする乾癬(かんせん)や、強いかゆみが続くそう痒症など幅広く、子どもから大人までさまざまな年齢層が含まれていました。この研究をもとに、親として知っておきたい肌トラブルと睡眠の深い関係をお伝えします。

夜にかゆみがひどくなる理由と睡眠への影響

体のリズムが夜のかゆみを強くする

お子さんのかゆみが夜になると強まると感じたことはないでしょうか。実はこれには体のしくみが関係しています。人間の体は夜になると体温調節のバランスが変化し、皮膚からの水分の蒸発量も変わります。こうした体の自然なリズムの変化が、夜間のかゆみを引き起こしやすくする一因と考えられています。

また、布団に入ってリラックスした状態になると、日中は気にならなかったかゆみが急に意識されやすくなるという面もあります。昼間は遊びや勉強に集中しているためかゆみを忘れていた子どもが、静かな夜になると途端にかゆがり始めるのは、こうした体と心の両面の変化が重なっているからです。

睡眠の「質」が静かに低下している

かゆみによる睡眠の妨げは、「夜中に何度も起きる」というわかりやすい形だけではありません。眠りの深さが浅くなったり、寝つくまでに時間がかかったりと、睡眠の「質」そのものが低下していることがあります。

今回の研究レビューでも、皮膚疾患を持つ患者の多くが何らかの睡眠の問題を経験していることが報告されています。特にアトピー性皮膚炎の患者では、かゆみによる睡眠の質の低下が生活全体に大きな影響を与えていることが繰り返し示されていました。

子どもの場合、自分の睡眠の質が悪いことを自覚しにくいのが難しいところです。「最近なんだか朝の機嫌が悪い」「日中ぼんやりしていることが多い」「授業に集中できていないようだ」。こうしたサインの裏に、夜間のかゆみによる睡眠不足が隠れている可能性があります。

蕁麻疹・アトピー・麻疹、それぞれの睡眠への影響

蕁麻疹のかゆみと睡眠障害

蕁麻疹は、突然皮膚に赤みやふくらみが現れ、強いかゆみを伴う症状です。一度きりで治まることもありますが、繰り返し症状が出る慢性のタイプでは、就寝時のかゆみに長期間悩まされるケースが少なくありません。

研究レビューでは、原因がはっきりしない慢性の蕁麻疹の患者525名を対象にした試験が取り上げられています。アレルギーを抑える薬で治療を行ったところ、28日後には治療を受けたグループの6〜7割が「睡眠の妨げがなくなった」と報告しました。一方、薬を使わなかったグループでは約4割にとどまっています。

この結果から、蕁麻疹のかゆみが睡眠に与える影響は決して小さくなく、適切なケアによって睡眠の質が大きく変わる可能性がうかがえます。お子さんが蕁麻疹を繰り返しているようであれば、「夜ちゃんと眠れているか」にもぜひ注目してみてください。

アトピー性皮膚炎についての研究が最も豊富

研究レビュー全体の中で、最も多くの知見が集まっていたのがアトピー性皮膚炎と睡眠の関係です。対象となった研究は21件にのぼり、約4,100名の患者さんが含まれていました。

注目すべきは、アトピー性皮膚炎の重症度を測る医学的な指標の中に「睡眠障害」の項目が含まれていることです。つまり、アトピーの程度を評価するうえで、睡眠への影響は見逃せない要素として医学的にも位置づけられているのです。

複数の研究で、かゆみを抑える治療を行うことで睡眠の質が改善したという結果が出ており、肌の症状と睡眠は切っても切れない関係にあることが改めて浮き彫りになっています。お子さんがアトピーと診断されている場合、肌の状態だけでなく「最近よく眠れていますか」と医師に聞いてみることも大切かもしれません。

麻疹と回復期の睡眠

麻疹(はしか)は感染症であり、アトピーや蕁麻疹とは性質が異なります。今回の研究レビューの直接の対象にも含まれていません。ただし一般的に、麻疹は高熱と全身の発疹を伴い、体への負担が非常に大きい病気です。発疹に伴う不快感が睡眠を妨げることに加え、免疫が大きく消耗するため、回復期にも十分な休息が欠かせないと考えられています。

麻疹そのものは予防接種で防げる病気ですが、万が一かかった場合には、睡眠をしっかり確保することが回復を早めるうえで大切な要素になるでしょう。「肌に症状が出ているときほど、質の良い眠りを意識する」という考え方は、感染症の場面でも共通して当てはまるポイントです。

研究が示す「睡眠改善につながるアプローチ」とは

薬による治療と睡眠の変化

研究レビューでは、皮膚疾患の治療法を「全身に作用する薬」「塗り薬」「薬以外の方法」の3つに分けて分析しています。

全身に作用する薬の中では、デュピルマブという薬が最も多く研究されており、最も一貫した睡眠改善効果を示しました。約1,400名を対象にした複数の試験をまとめた分析では、この薬を使ったグループの約5割が「睡眠の妨げがなくなった」と回答しています。薬を使わなかったグループでは約18%にとどまっており、その差は歴然でした。

ただし、鼻やのどの炎症、頭痛、目の炎症といった副作用が報告されていることも事実です。また、この薬に関する複数の研究が製薬会社からの資金提供を受けて行われており、結果の解釈には慎重さが求められます。薬の使用については、必ずかかりつけの医師に相談することが大切です。

また、小児を対象にした研究では、メラトニンという睡眠に関わるホルモンを補う薬を使った試験も報告されています。73名の子どもを対象にしたこの試験では、寝つくまでの時間が平均で約21分短くなったという結果が出ています。子どもの寝つきの悪さに悩んでいる親御さんにとっては気になる知見ですが、薬の使用については医師への相談が前提です。

一方で、塗り薬については意外な結果が出ています。複数の塗り薬が試験されましたが、多くの場合、睡眠の質に関して明確な改善は確認されませんでした。肌の症状そのものには効果があっても、かゆみを十分に抑えきれなければ睡眠の改善にはつながりにくいということかもしれません。塗り薬だけに頼るのではなく、他のアプローチと組み合わせて考える視点が重要です。

薬を使わないアプローチに注目

研究レビューの中で、特に親御さんに知っていただきたいのが「薬を使わないアプローチ」の有効性です。

たとえば、紫外線を用いた治療では、不眠の指標がおよそ3分の1にまで低下したと報告されています。また、体の各部位の力を順番に入れたり抜いたりするリラクセーション法を4週間続けたグループでも、睡眠の改善が確認されました。

さらに注目すべきは、アトピー性皮膚炎の子どもを持つ親を対象にした「保護者教育プログラム」の結果です。この研究では、医師による2時間の講義と資料の配布という、いわば「正しい知識を学ぶ」だけの取り組みが行われました。特別な薬や治療器具は使われていません。それにもかかわらず、2か月後には教育を受けたグループの子どもたちの睡眠の問題を数値で測った結果が、受けなかったグループに比べて明らかに改善していたのです。

この結果は、高額な治療を受けなくても、親が病気と睡眠の関係を正しく理解し、日々のケアに活かすだけで、子どもの眠りが良くなる可能性があることを示しています。

「かゆみと睡眠不足の負のループ」を断ち切るために

睡眠不足が肌をさらに悪化させる悪循環

ここまで「皮膚疾患が睡眠を妨げる」という方向でお伝えしてきましたが、実はその逆の影響も見逃せません。つまり、「睡眠不足が皮膚の状態を悪化させる」という方向の問題です。

睡眠は、体の防御力を正常に保つために欠かせない時間です。十分に眠れていないと、体の防御システムがうまく働かなくなり、炎症が起きやすくなったり、肌のバリア機能が弱まったりする可能性があります。

特に注意したいのが、「かゆみで眠れない、すると肌の状態がさらに悪化する、するとかゆみが増してまた眠れない」という悪循環です。このループが繰り返されると、症状が長引くだけでなく、お子さんの体力や気力にも大きな負担がかかります。学校生活や友人関係にも影響が出ることがあり、親としては見過ごせない問題です。だからこそ、肌の症状への対処と同時に、「いかに質の良い睡眠を確保するか」という視点を持つことが大切なのです。

寝室環境とスキンケア習慣の見直し

お子さんの睡眠の質を守るために、日常生活の中でできることはいくつかあります。

まず、寝室の温度と湿度に気を配ることです。暑すぎたり乾燥しすぎたりする環境は、肌のかゆみを悪化させる原因になりえます。冬場は加湿器で適度な湿度を保ち、夏場はエアコンで室温を快適に保つことが、かゆみの軽減に役立つかもしれません。

入浴後のスキンケアも大切なポイントです。保湿はお風呂から上がったらできるだけ早く行うのがよいとされており、肌のうるおいを逃さないことがかゆみの予防につながります。お風呂の温度を熱くしすぎないことも、肌への刺激を減らすうえで心がけたい点です。高温多湿な日本の気候では、梅雨から夏にかけて汗や蒸れによる肌トラブルが増えやすいため、この時期は特に意識してみてください。また、パジャマや寝具の素材にも目を向けて、肌にやさしい綿素材を選ぶなど、小さな工夫の積み重ねが夜のかゆみを和らげる助けになることがあります。

「正しく知ること」が子どもの眠りを守る第一歩

先ほどご紹介した保護者教育プログラムの研究結果が物語っているように、親が正しい知識を持つことは、お子さんの睡眠を守るうえで大きな力になります。

皮膚の状態が気になるときは、つい「肌をどうにかしなければ」と考えがちです。しかし、そこに「この子はきちんと眠れているだろうか」という視点を加えるだけで、対応の幅はぐっと広がります。かゆみが睡眠を妨げていないか、睡眠不足が肌を悪化させていないか。この両面からお子さんの様子を観察することが、症状の改善に向けた一歩になるかもしれません。

もちろん、症状が強い場合やなかなか改善しない場合は、早めに皮膚科の医師に相談することをおすすめします。その際、「夜かゆがって起きることがある」「寝つきが悪い」といった睡眠の悩みも一緒に伝えることで、お子さんに合った対応を一緒に考えてもらえるはずです。

まとめ

皮膚疾患と睡眠は、互いに影響し合う深い関係にあります。蕁麻疹やアトピー性皮膚炎のかゆみが夜の睡眠を妨げ、睡眠不足がさらに肌の状態を悪化させるという悪循環は、子どもの成長や日々の暮らしにも影を落とします。

2023年の国際的な研究レビューでは、薬による治療だけでなく、リラクセーション法や保護者教育といった薬を使わないアプローチにも睡眠改善の効果が確認されました。特に「親が正しい知識を持つだけで子どもの睡眠が改善した」という結果は、今日からでも取り入れられる大切なメッセージです。

お子さんの肌の調子が気になるとき、「睡眠は足りているかな」と少し引いた目線で見守ること。それが、肌トラブルと睡眠不足の負のループを断ち切るきっかけになるかもしれません。

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参考文献
1)Kulkarni VA, Mojica I, Gamsarian V, et al. Integrative Approaches to Sleep Management in Skin Disease: Systematic Review. JMIR Dermatol. 2023;6:e48713. doi:10.2196/48713