睡眠不足は肥満を招く?大人も子どもも注意するべき睡眠習慣と肥満の関係
「最近、体重が気になるけど、運動する時間がない……」「子どもがちょっとぽっちゃりしてきたかも?」そんなふうに感じたことはありませんか?
ダイエットや体型の管理といえば、多くの方が「食事制限」や「運動」を思い浮かべるでしょう。もちろんそれらは大切ですが、実はもうひとつ、見落とされがちな大きな要因があります。それが「睡眠」です。
「え、寝ることと太ることに関係があるの?」と驚かれるかもしれません。しかし、世界中の研究をまとめた大規模な分析によると、睡眠時間が短い人ほど肥満になりやすいという傾向が、大人にも子どもにもはっきりと認められています。
この記事では、63万人以上のデータを分析した研究結果をもとに、睡眠不足と肥満の関係をわかりやすくお伝えします。お子さんの成長が気になる方、ご自身のダイエットがうまくいかないと感じている方にとって、今日からすぐに見直せるヒントがきっと見つかるはずです。
なぜ今「睡眠と肥満」が注目されているのか
世界的に進む「短眠化」と「肥満の増加」
私たちの睡眠時間は、この50年で大きく変化しています。アメリカの全国調査では、人々の睡眠時間が過去50年間で1.5〜2時間も短くなったと報告されています。日本でも、仕事の残業や家事育児の負担、スマートフォンやSNSの利用などにより、就寝時刻が遅くなっている方は多いのではないでしょうか。特に共働き世帯が増えた現代では、子どもの就寝時刻も年々遅くなっているという指摘があります。
一方で、肥満は世界的に急増しており、WHO(世界保健機関)は肥満を「世界的な流行」と宣言しています。日本でも、メタボリックシンドロームや生活習慣病への関心が高まっていますが、「なぜこれほど肥満が増えているのか?」という問いに対して、食事や運動だけでは説明しきれない部分があることが指摘されてきました。
そこで近年、研究者たちが着目したのが「睡眠」です。睡眠時間の減少と肥満の増加がほぼ同じ時期に起きているという事実は、両者に何らかの関係があるのではないかという仮説を生み出しました。
63万人のデータが示す「睡眠不足と肥満」の関連
この疑問に答えるために、英国ウォーリック大学の研究チームは、世界各国で行われた複数の研究データを集め、統合的に分析するという手法(メタアナリシス)を用いて大規模な検証を行いました(Cappuccio FPら、2008年)。
対象となったのは、17か国以上にわたる合計63万4,511人分のデータです。子どもから大人まで幅広い年齢層(2歳〜102歳)が含まれ、日本やアメリカ、フランス、ドイツ、中国など多様な国のデータが統合されました。
つまり、この研究は特定の国や文化に偏らない、世界規模の調査結果だといえます。その結果、睡眠時間が短い人ほど肥満になりやすいという傾向が、国や年齢を問わず一貫して確認されたのです。
研究で明らかになった「睡眠時間と肥満」の数字
子どもの場合:睡眠不足で肥満リスクが約1.9倍に
この研究で特に注目すべきなのは、子どもへの影響の大きさです。
睡眠時間がおおむね10時間未満の子どもは、十分に眠っている子どもと比べて、肥満になるリスクが約1.89倍になるという結果が出ました。わかりやすくいうと、しっかり寝ている子どもに比べて、睡眠が短い子どもは「太りやすさ」がおよそ2倍近くになるということです。
お子さんがスポーツの習い事をしていて、体をよく動かしているから大丈夫と思っていても、もし夜ふかしが習慣になっていれば、運動の効果を十分に活かしきれていない可能性があります。実際に、睡眠は運動で疲れた筋肉の回復や、成長ホルモンの分泌にも深く関わっています。「しっかり食べて、しっかり動いて、しっかり寝る」。この3つがそろってはじめて、子どもの健やかな成長とスポーツでの上達につながるといえるでしょう。
大人の場合:1時間の睡眠不足で体重が増える?
大人についても、明確な傾向が確認されています。おおむね5時間未満の睡眠をとっている大人は、そうでない人と比べて肥満のリスクが約1.55倍でした。
さらに興味深いのは、睡眠が1時間短くなるごとに、BMI(体格指数:体重と身長から算出される肥満度の指標)が0.35ポイント増加するという分析結果です。これは、たとえば身長178cmの人であれば約1.4kgの体重増加に相当します。
たった1時間の違いで体重に差が出ると聞くと、夜中のスマートフォンやテレビの視聴を少し控えようかなと思いませんか? 忙しい毎日の中でも、「あと30分早く寝よう」と意識するだけで、体型の管理にプラスに働く可能性があるのです。
この数字が意味すること
もちろん、この研究は「ある時点でのデータ」をもとにしたものであり、「睡眠不足が直接肥満を引き起こす」と断言するものではありません。しかし、子どもでも大人でも、そして世界中のどの地域でも同様の傾向が見られたという事実は、睡眠と体重の間に強い結びつきがあることを示しています。
なぜ睡眠不足だと太りやすくなるのか
食欲をコントロールするホルモンへの影響
「寝ていないだけで太る」というのは、直感的には不思議に感じるかもしれません。しかし、その背景には体内のホルモンの変化が関係していると考えられています。
私たちの体には、食欲を調節する2つの重要なホルモンがあります。ひとつは「レプチン」で、満腹感を感じさせて食欲を抑えるはたらきがあります。もうひとつは「グレリン」で、空腹感を高めて食欲を増進するはたらきがあります。
睡眠が不足すると、レプチンが減ってグレリンが増えるという変化が体の中で起こります。つまり、睡眠不足の状態では「お腹がいっぱいだ」と感じにくくなり、「もっと食べたい」という気持ちが強くなりやすいのです。結果として、1日に食べる量やカロリーが自然と増えてしまう可能性があります。
夜ふかしによる「食べる時間」の増加
ホルモンの影響に加えて、もっと単純な要因もあります。それは、起きている時間が長くなれば、その分だけ食べる機会が増えるということです。
夜遅くまで起きていると、つい夜食やお菓子に手が伸びてしまう経験はないでしょうか。特にお子さんの場合、夜ふかしの結果として朝食を食べられず、その代わりに間食が増えるといった悪循環に陥りやすくなります。
さらに、睡眠不足の翌日は疲労感から体を動かす気力が湧きにくく、日中の活動量が低下するという悪影響も考えられます。スポーツの習い事で一生懸命体を動かしても、慢性的な睡眠不足があると、そのパフォーマンスを最大限に発揮できないかもしれません。
子どもの「睡眠と肥満」に親ができること
子どもの肥満は将来にも影響する
子どもの時期の肥満は、単に体重が重いというだけの問題ではありません。子どもの肥満は自己肯定感の低下や友人関係への影響など、心理面にも大きな影を落とすことがあります。体育の授業や運動会で自信をなくしたり、見た目を気にして消極的になったりするケースも珍しくありません。また、子どもの頃の肥満がそのまま大人の肥満に引き継がれるケースも少なくなく、将来的に心臓病や糖尿病といった深刻な健康問題につながるリスクも高まります。
だからこそ、「たかが体重」と軽視せず、子どものうちから健康的な体型を維持する習慣を身につけることが重要です。そしてその習慣の中に「十分な睡眠」を組み込むことは、食事や運動と同じくらい大切な投資だといえます。
就寝時間のルールづくりが第一歩
お子さんの睡眠を改善するために、まずできることは「就寝時間を決めること」です。特に小学生のお子さんであれば、夜9時〜9時半を目安に布団に入る習慣をつけるのが理想的です。
ポイントは、寝る直前までスマートフォンやタブレット、テレビなどの画面を見ないことです。画面から出るブルーライトは脳を覚醒させ、寝つきを悪くすることが知られています。寝る30分〜1時間前には画面から離れ、読書や静かな会話など、リラックスできる時間を設けるとよいでしょう。
また、親御さん自身が夜ふかしをしていると、子どもの就寝時間もつられて遅くなりがちです。「早く寝なさい」と言うだけでなく、家族全体で「夜の過ごし方」を見直すことが、結果として子どもの健やかな成長を支えることにつながります。
大人も見直したい「睡眠を大切にする暮らし」
ダイエットの成果が出ないのは睡眠のせいかもしれない
「食事に気をつけているのに痩せない」「ジムに通っているのに体重が減らない」。そんな悩みを抱えている方は、一度ご自身の睡眠を振り返ってみてください。
先ほどご紹介した研究結果のとおり、睡眠が1時間短くなるだけでも体重に影響が出る可能性があります。いくら食事制限や運動を頑張っても、睡眠不足によって食欲をコントロールするホルモンが乱れていては、その努力が十分に報われないかもしれません。ダイエットがうまくいかない原因は意志の弱さではなく、睡眠不足による体の仕組みの問題である可能性もあるのです。
ダイエットを成功させたい方にとって、「食事」「運動」「睡眠」はいわば三本柱です。どれかひとつが欠けてもバランスが崩れてしまいます。特に40代前後になると、若い頃と比べて基礎代謝が落ち、体重が増えやすくなります。だからこそ、睡眠の質と量を確保することが、これまで以上に重要になるのです。
まずは「あと30分」早く寝ることから
「7〜8時間寝ましょう」と言われても、仕事や家事に追われる毎日の中で、すぐに理想的な睡眠時間を確保するのは難しいかもしれません。
そこでおすすめしたいのが、まず「今よりあと30分早く寝る」ことです。いきなり大きく生活を変えるのではなく、小さな一歩から始めてみましょう。夜のスマートフォンの利用を30分だけ減らす、テレビを1本早く切り上げるなど、できることから取り組んでみてください。
その30分の積み重ねが、あなた自身の体型管理だけでなく、お子さんの成長と将来の健康を守ることにもつながるかもしれません。
まとめ
世界63万人以上のデータをもとにした研究は、睡眠時間が短い人ほど肥満になりやすいという関係が、大人にも子どもにも当てはまることを明らかにしました。とりわけ子どもでは、睡眠不足による肥満リスクが約1.9倍と、大人以上に大きな影響が見られています。
肥満対策というと「何を食べるか」「どれだけ運動するか」に意識が向きがちですが、「しっかり眠ること」は、食事や運動と同じくらい重要な柱であることがわかりました。
特に子育て世代にとっては、お子さんの就寝時間を整えることが、将来の肥満を予防し、心身ともに健やかな成長を支える大切な一歩になります。そして、子どもの睡眠習慣を見直すことは、親自身の生活リズムを改善するきっかけにもなるでしょう。
「よく寝ることは、よく食べること、よく動くことと同じくらい大切」。今夜から、まずはあと30分だけ早く布団に入ってみませんか? その小さな積み重ねが、家族みんなの健康を守る大きな力になるはずです。